僕らの世界は変わってく。
不変なんて、
どこにもないよと笑いながら。




シフトチェンジ




アクセルをあおる。クラッチ蹴飛ばして、二速。
踏む、踏んで踏んで、三速へ。
「なぁ」
全開にした窓から、吹き込む風が心地よかった。
ギアが変わるたび、身体にかかる軽い圧力も。
──四速。
「一体、俺ァどこにいきゃあいいんでィ」
ぐんぐん加速していく車、流れていく景色を、横目で眺めながら問う沖田に、助手席で頬杖ついて、外を眺める神楽は、どうでもよさそうに答ええた。
「さぁな、自分で考えろヨ」
「んなこと言ってっと、車から蹴り出すぞ。このクソチャイナ」
ガコン。と、やや乱暴気味にギアを変え、トップに。
「わーこわいヨー。おまわりさーん」
もう、かぶき町はとっくに通り抜け、江戸の外れまできていた。
「テメーがうちの人間、ボコボコにしで、車ジャックしたんじゃねーか。なにさらっと被害者面してやがる」
「それを言うなら、お前も喜んで無線切ってたじゃねーか」
ケッとお互い吐き捨てて、またそっぽ向き合う。
今頃は、頓所で土方あたりが怒り心頭『切腹だ!』と騒いでいるだろう。
いっそ、血圧上げて自滅すればいいと、思って笑った。
「で、テメーは一体どういうつもりで、ここにいるんだ」
「私くらいのレベルになると、かぶき町は狭すぎるネ。だから、広い世界をみようと思ったネ」
「テメ、そりゃあそのまま昨日やってたワンパークじゃねぇか」
世界をみたいとヒロインは言い、主人公を巻き込んで、電車を占拠し、いつしか宇宙を目指していた。
そういえば、彼女はわりにTVの影響を受けるなと、思い出す。
鼻唄を唄いながら、だんだんさびれていく外をみつめる神楽に、沖田はにやりと笑った。
「チャイナァ」
「……なにアル」
「昨日のワンパークのオチ、知ってるかィ?」
「当たり前ネ、最後は──」
ぎゃー! と、車の中に神楽の悲鳴が響く。
「るせぇな。色気のねぇ声出してんじゃねぇや」
「おおおおろせよ馬鹿! お前っ、なにする気アルかっ?」
「なぁに、照れるこたァねぇよ。とりあえずは、教会探しからはじめっか」
「このお前っ、どんだけプラス思考アルかっ! 私は絶対に断固として拒否権を発動するからな! 銀ちゃんが黙ってないからなっ!」
「大丈夫だろィ。旦那なら、パフェ一年分で俺らの未来を祝ってくれるに違ぇねぇ」
「…………」
一気にギアを落とし、路肩に車を寄せてとめ、沖田は神楽にギリギリまで顔を寄せ、囁くように告げた。
「『一生面白おかしく生きていくには、テメーが必要不可欠なんでィ。だから、ずっと傍にいろよ』」
ヒロインがしたプロポーズの言葉を、流用して告げてやる。
真っ赤になった神楽は、あわあわと口を開いて、信じられないものをみるように、沖田をみつめていた。
「…………」
その表情が、思った以上に琴線に触れ、ふむ。と、あごに手をあてた。
「いっそこのまま、ハネムーンと洒落こむかィ?」
神楽のシートを倒し、言えば跳ね起きた神楽が、拳を繰り出してきた。
沖田はそれをかわさず、てのひらで受けとめる。
「オイオイ、車壊すなよ」
「お前がその減らず口を閉じたら、考えてやるヨ!」
肩をいからせながらも、神楽の真っ赤に染まった顔をみれば、拒否の姿勢がポーズだとわかる。
「ま、素直になったテメー相手は、つまらねぇからな」
満足気に言って、沖田は運転席に座り直すと、車を発進させた。
アクセルを、ふかしてふかしてクラッチ蹴って、サイドブレーキを引く。
「うわわわっ、お前っ、もっと安全運転しろヨ」
急旋回した車に、シートを倒されたままの神楽は焦ったように、手近な取っ手につかまった。
「……戻るアルか?」
Uターンした車に、神楽が聞く。
「なんでィ、本気で逃避行してーのか」
「そんなわけねーダロ。この自意識過剰野郎。お前本気で私のこと好きなんじゃねーの」
「さぁて、どうなんだかねぇ」
わざとらしく、肩をすくめてみせたって、お互いに、バレバレだろう。
だからと言って、自分から言うのも釈だから。
「とりあえず、飯でも食いにいくか」
「おう!」
ちょっとずつ、進んでいけばいいと思った。
なにもしなくても変化するものならば。






END

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