ずっと、ずっと。
このままで──。




変わらない日々に




「ねぇ、日番谷くん」
「黙ってろ」
雛森の問いは、日番谷によってすげなく返され、弱りきったため息をこぼす。
いま、雛森は、十番隊隊舎内のどこかに、日番谷の手で拉致されている。
理由はよくわからない。
就業中だったので、藍染に助けを求めたが、彼はなにかしっていたのか、笑顔で気を付けていっておいでと、見送られてしまった。
「あたし、遊んでる暇ないんだけ……!」
愚痴めいたものをこぼすと、日番谷によって口を塞がれてしまった。
数瞬後、下から大勢の足音が響いた。
「隊長、いたか?」
「どこにもいないわ」
「くっそー! 絶対にみつけるぞ」
「当たり前よ」
そしてまた、バタバタと足音が通りすぎていく。
どうやらここは、屋根裏らしかった。
「……アイツら、人海戦術で攻めてくる気だな。雛森、場所移すぜ」
問われても、口を塞がれたままでは返事もできない。
日番谷は、結局口から手を離さないまま、雛森を担ぎ上げてその場から、離れた。




「それで、どういうわけなのか説明してよ」
移動先は、瀞霊廷内の森の中。
木々に身を隠すように、枝の上に並んで座った。
「文句は、松本に言え」
低く押し殺した声で、油断なく日番谷は言った。少し不機嫌な顔つきで。
「……乱菊さん?」
なぜここに、松本の名前が出るのかと、首を傾げれば日番谷が説明をはじめた。
昨晩、松本は十番隊隊士たちと、親睦会という名の飲み会を開いた。
その席で、ひとりの隊士が言った。
「隊長ー、最近付き合い悪ぃよなぁ。修行も付き合ってくれないしー」
日番谷からすれば、ひとりの修行に付き合おうとすれば、いつの間にか、ほとんどの隊士が集まってきて、収拾がつかなくなるから、逃げているのだが。
そんな中で、ぐでんぐでん出来上がった松本が、提案をしたのだ。
「『じゃーあ、明日みんなで隊長とっつかまえて、修行付き合わせちゃいなさいよ』……って、言ったの? 乱菊さん」
「ああ。しかもひとが寝てるところに、事後報告しにきやがったんだよ、アノヤロウは」
「そ、そっか」
雛森は、日番谷に同情をした。
「連中は、酔っちまってるわ、ヒートアップして、まともな話し合いはできねえわで、後は逃げ回るしかねえだろ」
「たしかにそうだね。でも、お仕事滞っちゃわない?」
みた感じ、十番隊のほとんどの隊士が、参加しているようにみえる。
一種のお祭りみたいだ。
となると、雑務がたまってしまうんじゃないだろうか。
「その辺は、ぬかりねえよ。交換条件出しておいたからな」
「──っひゃあ」
また突然、肩に担がれた。
「お前悲鳴なんてあげてんじゃねえよ、副隊長だろーが」
「副隊長だってびっくりはするのっ。せめて一声かけてよ」
気を遣って小声で言う。
先程まで自分たちがいた辺りに、複数の霊圧を感じた。
「なんか、みんな必死だね」
「そらそうだ。期限の時刻までに俺を捕まえられなきゃ、アイツら向こう半年、休み返上で仕事だからな」
にやりと、日番谷の口の端が上がる。
「……それは、大変だねぇ」
「お前は呑気だけどな」
皮肉っぽく言われて、むぅっと膨れる。
「そもそもあたし、この騒動になんの関係もないじゃない」
なのに、なぜ巻き込まれたのか。
その問いに呼応するように、流れていた景色が、ぴたりととまった。
なのに、雛森になんの反動もないのは、さすがだと思う。 下ろされた雛森の足元に延びるのは、瓦屋根。
「ここ、五番隊?」
「……ちょっと、黙ってみてろ」
日番谷が、死覇装をきた一団を指し示した。
「ちくっしょー、隊長ちゃっかり雛森副隊長押さえてやがったよ」
「さすがに手回しがいいな」
「雛森副隊長さえいりゃ、日番谷隊長の居場所くらい、あっという間にわかんのになぁ」
狙ったような会話を繰り広げ、隊士たちは屋根の上を注視することなく、歩いていった。
「…………」
「つーわけだ」
疲れたように告げて、日番谷はその場に腰をおろした。
雛森は、戸惑ったように、日番谷を見下ろした。
「お前、昔っからかくれんぼで、俺だけみつけるの得意だったろ。他の連中がどれだけわかりやすい場所に隠れても、真っ直ぐ俺のとこにきて」
「そう、だっけ」
よく覚えてなくて、しゃがんで首をかしげた。
日番谷は、笑う。のどをひきつらせるように、クッと噛み殺した。
「無自覚だから、タチ悪ぃよな」
雛森にとって、日番谷はいて当たり前のひとだ。
探すまでもなく、どこにいるかはいつも感じてる。
霊圧を、じゃなくて、存在を。
「あ、そっか」
日番谷も、きっとそうで。
それはずっと、何年も何年も、傍に居続けたからだ。
「何年たっても、変わらないんだね、あたしたち」
「相変わらず、幼児体型だってか?」
「もうっ!」
腕を振り上げたところで、雛森は動きをとめる。
しばし無言でみつめあって、同時に駆けた。
「なんか、楽しいね。こういうの」
かくれんぼみたいだ。鬼ごっこかもしれない。
少なくとも、刻限までは一緒にいられる。
最近では、ちょっと珍しいことだ。
日番谷には、バカにされるかとも思ったけど、どこか楽しそうにみえて。
全部終わったら、からかってあげようと、密かに雛森は決めた。






END

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