いつかこんな日がくるって思ってた。
でも、本当はしらなかった。
きみの真意の在り処を、探していたからかな。




サヨナラ、こどもの日




「風邪、ひくんじゃねえのか?」
月夜の晩、五番隊隊舎の屋根の上。
じっと座って夜空を眺める雛森に、焦れたような声がかかる。
じっさい、そうなんだめうなと。思った。
「探しにきてくれたの?」
「違ーよ」
絶対に認めない声に、くすくすと笑いをこぼした。
「じゃあその花束は、誰あてなのかなー」
くるんと振り返れば、毎年のことながら日番谷が花に埋もれている。
ずっと、昔からの約束。
毎年一輪ずつ増えていく、花。
雛森の想いと、日番谷の想いに、比例するかのように。
「そろそろ、言わなきゃなって思うんだけどね。でもあたしから言い出すのって釈だなぁとも思うんだ」
「……なんの、話だ?」
「わかってて聞き返してくるひとには、教えてあげません」
つんと澄まして言えば、日番谷は盛大にため息をついた。 けれど、その表情は花に隠れてみえない。
ちょっと残念だなと、思う。
雛森は、日番谷の緑色の瞳が好きだった。
月明かりに照らされた、雪原のような髪の毛も。
「誕生日、おめでとう」
かさりと花束が動き、雛森の腕の中へと収まった。
最初は、野に咲く花だった。
それでもいろんな種類の花を、日番谷は毎年探してくれて。
「いまはお店のお花だよね」
ぽつりと呟いて、花の向こう側の日番谷を、みた。
いつも通り、不機嫌そうに眉を寄せて、雛森をみている。
表情さえも素直じゃない幼なじみは、嘘は嫌いなせいか目がとても正直だった。
「ありがとう。日番谷くん」
ほら、雛森が嬉しそうに笑えば、ほっとしたように目元が和らぐ。
本当は花よりもなにより、その顔をみるのが嬉しい。
一年間、変わらず傍にいるという事実が、幸せだと思う。
「…………? 日番谷、くん?」
逸らされないままの視線に、花越しに日番谷をみあげる。 気がつけば、一歩半はあいていた距離が、あっという間に縮んでいた。
「で、いーのか?」
「なにが?」
真剣なまなざしに、視線を動かせない。
月明かりの下なのに、不思議に輝く緑色の瞳から。
「お前が言ったんだろ。そろそろってな」
「!」
にやりと日番谷が笑う。
さっきの雛森の言葉を聞かなかったふりをしておいて、そういうことを言うのだ。
「もしいいっつーんなら、俺はもう容赦も遠慮もしねえぜ?」
「のぞむところですー」
日番谷を見据えて、言い返す。
容赦とか、遠慮のほうが雛森には必要ない。
こうなる日を、多分ずっと待ってた。
ぎゅっと抱きしめる花束が、かさりと音をたてて落ちる。
その音は、いままでの日常が崩れた音。
そして、新しいふたりのはじまりだった。






END

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