ねえ、僕たちはどこへむかっているんだろうね。




てのひらの未来




シャーっと、自転車のタイヤの回転音。
システムオールグリーン。発信どうぞ。
なんて、昔みていたロボットアニメの真似をする。
啓吾の自転車の後ろは、もう自分の特等席のようになっている。
「なにがー」
ポチポチとメールを打ちながら、気のない返事で水色は返す。
啓吾相手に百パーセントは使わない。
それは、名も知らない年上の女性に対してのみ使う。それが持論だった。
だからといって、軽んじているわけでもない。
なんだかんだで、自分の一番の理解者だからこそ。だ。
啓吾もそれを望んでる。
「一護だよ、一護。チャドもだな。なーんか、俺らに隠しごとしてる気ィすんだよなァ」
ぼやく声に、どこか寂しさが含まれるのは、仕方のないことなのかもしれない。
実際水色も思っていることだ。
ちょっとずつ、少しずつ、なにかがずれてきている。
ほんのわずかの歪み。
それは一体自分たちに、どんな作用をもたらしているというのか。
「朽木さんがきてから、だよね」
あの、不思議な印象の転校生。
儚げなようで力強く、けれど内側に寂しさをたたえた小柄なクラスメート。
どこか自分と似通った気配を、感じていたけれど。さて。
「いきなり石田つれてきて、メシ一緒に食い出だすし、かと思えば無言だしっ。っあぁぁぁ!! アレじゃねぇ水色っ、この先俺らハブられんじゃねぇ」
啓吾が両手をハンドルから離して、頭を抱えたことにより自転車が大きく傾く。
咄嗟に水色は、自転車から飛び降りた。
「うおっ、おおおおおぉぉぉぉぉぉっ」
ざざざざざーっと、川べりの土手を滑り落ちていく自転車と啓吾を遠巻きに眺めつつ、水色は携帯をぱたりと閉じた。
「啓吾ー、生きてるー?」
やる気のない声で呼べば、自転車の下敷きになっていた啓吾が、よろよろと片腕を上げて親指をたててきた。
大丈夫アピールなのだろう。
けれど、自転車からいつまでも這い出てこないあたり、それなりにダメージは受けているのだろう。
水色は動かないまま、土手にしゃがみこんだ。
啓吾が自転車を押して上がってくるのを、待つためだ。
手伝わないし、必要以上に心配しない。
これが自分のスタイルだしスタンスだと思ってる。
「水色〜、お前もうちょっと助けにくるとか焦るとかしてくれよなぁ」
へろへろとした声を発しつつ、啓吾が自転車を押して土手を上がってくる。
「やだよ。疲れるじゃない。心配はそうだね、心停止したら考えるよ」
「えーっ、ウッソだろ!? 俺死ぬじゃんよー、そんなだったら」
「とりあえず早く帰りたいからさっさと上がってきてよ」
「冷てーなー」
ぼやくように言いながら、啓吾は自転車のフレームがまがってないかをチェックする。
その口元が笑んでいたのは、水色はすでに確認済みだ。
水色も、本気で心配しないわけじゃない。
さすがにそこまで鬼ではないし、啓吾のことを嫌ってるわけでももちろんない。
尊敬している。
いつでも、まず他人を楽しませようとするそのスタイルを。
率先して道化を演じ(本気かもしれないが)、みてないようできっちりみてるところはみてる。
そんな部分を。
ただ、言わないだけだ。
そんなのは、自分じゃないし。啓吾も望んではいないから。
「おーっし、帰るぞー、水色」
自転車にまたがり、啓吾が笑う。
その後ろにちょこんと座れば、携帯がメールの着信を告げる。
「んで、どうするの?」
素早くメールを返しながら、問う。
一瞬の、沈黙。
「なにがだよ」
「一護とかの様子が変って話だよ」
さっきまであんなに騒いでいたのに、忘れたのかフリなのか。
ある意味、読みにくい。
「ああ」
笑いの含んだ声。
それだけで、水色は啓吾の意思をしる。
なんだかんだで付き合いは長い。
いろんな女性の間を渡り歩く自分を、やっかみもなく心底からうらやんで、屈託なく笑って接した。
水色の、闇に気づいてもしらないフリをして、バカみたいな態度をとり続けて。
啓吾は、大きいと思う。器が。
ある意味、大物。
というのは、ちょっとだけイヤミもまざってる。
それは許してほしい。
自分にはどうあがいても、手に入れられない強さだ。
「まー、話したくなったら話してくれっかなーって、落ちる直前思ったんだよなァ。大体アイツらが困ってることで俺が力になれることも少ないしなぁって思ったら、変わらず馬鹿やってた方がいい気がしてなー」
「なんていうか、啓吾らしいよね」
前向きなようで、後ろ向きで、けれど前向きな思考。
「そーかー? 褒めてもなんもでねーぞー」
「や、褒めてないし」
がくりと目に見えて落ち込んでいるだろう、背中。
みえないけど、わかるのは、つきあいの長さ故か。
「ねぇ、啓吾」
「んー?」
「僕きっと、啓吾とは一生腐れ縁な気がするよ」
それは、予感ではなく確信。
てのひら分の、未来予測。






END

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