同じ気持ちであればいい。
違ったとしても、想いが一緒であればいい。




白き舞い散る雪の夜




「……寒い、なぁ」
真っ赤になった指先をこすりあわせて、雛森ははぁと息を吐きかけた。
息が白い。
桃色の襟巻きを更にぐるぐると首に巻きつけた。
「去年の今ごろは、もう一緒にいたっけな」
同じような雪ふる夜に。並んで、彼の部屋へとむかっていた。
12月20日。
年に一度のタイセツな、日。
けれど去年とは違って、ここに、彼はいない。
任務で、現世に出ているのだ。
「帰ってくるって報告はいってたのにな」
任務が、滞っているのかもしれない。<>br 瀞霊廷には戻っていて、報告に時間がかかっているのかもしれない。
なにか、あったのかもしれない。
かもしれない。かもしれない。
全部仮定の話。
「……ううん。大丈夫」
浮かんだ言葉を、振り切るように呟いて空をみた。
雪がどんどんと降ってきて、雛森の肩に、頭に、積もっていく。
「帰ってこれるって言ったから。大丈夫」
薄く、口元に笑みがのぼる。
妙な自信があった。
大丈夫。絶対に。
そんな想いがあるから、待つのだ。自分は。
日番谷の部屋では、お祝いにと用意した料理と、プレゼントを用意していた。
後は、彼が戻ってくるのを待つだけ。
十番隊の隊舎前の、門によりかかって、まぶたを閉じた。
ひらひらと風に流されて落ちてくる雪は、雛森の頬に耳に触れて融ける。
まるで、キスをされているようだと、思って照れくさくなった。
両手で、赤くなっている気がする頬を、つつんでで隠す。
誰もいないはずの場所。
雪が地に落ちる音さえ聞こえそうなほど、静かで。でも、不思議と安らいだ。
たったったった。
耳に、届く足音。
だんだんとそれは近づいてきて、雛森のすぐ傍でとまった。
「馬鹿だろ。お前」
心底呆れた、低い声に目を開く。
そこには、ずっとずっと待っていたひとがたっていた。
自然に口元が緩む。笑みが浮かんだ。
「――お誕生日、おめでとう」
するりと口から出たのは、お帰りでもお疲れさまでもなくて。
眉が寄せられ、不機嫌そうな目が自分を見上げてきても、雛森は、満足だった。
「よかった。今日に間に合って」
日付けが、あと少しで変わるところだったと、口元を綻ばせて言った。
だって、今日じゃなきゃ言えないから。
この日じゃなきゃ、だめだから。
「本当はね、穿界門の前で待とうかとも思ったけど、報告終わるまではお仕事だから。ここなら、いき違いにならないし、確実かなって」
笑う雛森との距離を、どんどん詰めてきた日番谷は、その手首をつかんでひっぱる。
「御託はいい。とっとと部屋はいるぞ。馬鹿は風邪ひかねえって言うけど、あり迷信だしな」
「それ、どういう意味よ」
「いったまんまだ。馬鹿」
「もう」
膨れても、嬉しい気持ちは消えずに、自然と笑っているから不思議だ。
だって、ねぇ。
「でも、日番谷くん。あたしここにいるって思ったから、走ってきてくれたんでしょ?」
「うるせえ」
ぎゅっと、つかまれた手に力がこもった。
それは、雛森の指摘が正しかった証拠だろう。
日番谷の髪にも、ところどころ雪が積もって、どうしようもなくそれが愛しい。
「あたしは、嬉しかったよ。走ってきてくれて。おんなじ気持ちでいてくれたんだって、思ったの」
雛森の言葉は、しんとした空気を震わせて、日が屋に届いているに違いない。
だって、雪がとても優しく降っているから。
ふたりを、つつみこんでくれているから。
「ねぇ、ひつがや――」
くん。と、続くはずだった言葉は、塞がれて飲み込まれた。
くちづけられた。と、気づいたのは数瞬後で思考がとまった。
かさついた唇は、ひどく熱くて。
熱が口唇を通して、雛森の身体に伝わってくるように、全身が熱くなった。
ちゅ、と、音をたてて口唇が離れる際、軽く吸われて言葉を失くす。
ついでててきたのは、ひ。ひ。ひ。という、無意味な音の羅列だけだ。
「もう日付け変わるしな」
にやと笑んだ日番谷の口唇が、プレゼントの前渡しな。と、言った。
口を押さえてぱくぱくと、動かすしかできなかった雛森は、言葉を紡ぐことができなくて。
ただ、つかまえられた手を握り返して、もう。と、膨れてもう一度告げた。
「お誕生日、おめでとう」
答えは、二度目のくちづけだった。






      END

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